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…ダダダダダダ――

―バンッ!!!

「美矢(ミヤ)っ!!今すぐ惚れ薬作って!!」

ドアを壊さんばかりに勢いよく開けて入ってきた少年に、室内にいた美少女が何事かと振り返る。

「あら、藤宮先輩じゃないですか。どうしたんですかいきなり?」

美少女、美矢と呼ばれた人物は分厚い本を机に広げ、右手には緑色をした液体の入った試験管を、左には青い液体の入ったビーカーを持って佇んでいた。

「何でもいいから惚れ薬!!」

オレは走ってきたことで乱れた髪や制服を直すことなく、ずんずんと部屋の中に入り美矢の正面に立つ。

「何でもいいから、じゃ流石の私でも作れませんよ」

美矢は両手に持っていたビーカーと試験管を机に置くと、端に寄せてあった椅子を二脚もってくる。

「どうぞ」

「あ、ごめん。オレ…」

椅子に座り、落ち着くとオレは残してきた先輩の事を思い出しうるっと瞳に涙を溜めた。

それを見て美矢が何も言わずスッとハンカチを差し出してきた。

「…ありがと」

溢れ落ちそうになる涙を拭いてオレは顔を上げる。

「美矢、惚れ薬作ってくれないか?」

「どうして、って聞いてもいいですか?」

「うん。実は…」








「…と、いうワケなんだ」

オレはしゅんと肩を落として説明を終えた。

「そうだったんですか。お兄さんとそんな事が…」

美矢は何やら一人納得して、いいでしょうと頷いてくれた。

「本当!!」

「えぇ。私たちが丹誠込めて作った性転換の薬をフイにしてくれたお礼と、可愛い藤宮先輩の恋の成就、魔術部は全力を持って手伝わせて頂きますわ」

「ありがとv」

「…ただ、材料を集めるのに時間がかかってしまいますけど」

「いつぐらいに出来る?」

「そうですね…早くて三日。三日後には作り上げておきます」

こうしてオレは惚れ薬を作ってもらう約束をした。








三日後…

「美矢っ!!出来たか!?」

三日前と同じように勢いよく部室の扉が開かれる。

「「藤宮先輩!!」」

「おまちしてました」

今日は室内に美矢の他に、同じ顔をした二人の少年と少女がいた。

「茜、昴!!久しぶりv」

「お久しぶりですv今日も可愛いですねv」

「茜、藤宮先輩はいつだって可愛いんだ」

「ははは…ありがと二人とも」

オレは上機嫌で美矢の方に手を差し出した。

「出来た?」

美矢はにっこり笑ってその前に、と用意されていた椅子にオレをすすめた。

「あの後、お兄さんとどうなりました?」

「…それが、よくわかんないんだ。オレ、我が儘言って困らせたのに家に帰ったら普通におかえりって出迎えられて…」









「おかえり」

先輩はリビングから顔を出し、笑ってそう言った。

「た、ただいま…」

怒ってないの?

呆れてないの?

「どこ行ってたんだ?」

「…学校。オ、ニイチャンこそ何してたの?」

「俺?俺はお前が帰ってくるの待ってたんだ」

「何で?」

「いきなり家を飛び出してったら誰だって心配するだろ?」

「うっ…ごめんなさい」

別にいいと言って、先輩はリビングから出てくるとうなだれたオレの頭を軽くぽんぽん、と叩いて二階に上がって行ってしまった。







「ふぅん、なるほどね」

顎に手を当てにやりと笑む美矢にオレは首を傾げた。

「美矢?」

オレ何かおかしな事言ったか?

言ってないよな?

「あぁ、ごめんなさい。わかりましたわ。じゃ、これお約束の品です」

そう言って美矢は小瓶を机の引き出しから取り出した。

オレはそれを大事に受取り鞄にしまう。

「ありがとv」

そしてオレは美矢と、協力してくれただろう魔術部の部員、茜と昴にもお礼を言って部屋から出て行った。







「なぁ、美矢。先輩に注意しなくてよかったのか?」

「そうよ!!もしアレを先輩がそのお兄様に取り上げられでもして、別の人に使われでもしたら…」

「私達のせいで藤宮先輩が失恋してしまう、と?」

美矢の言葉に二人はうんうん、と頷く。

「大丈夫。取り上げられたとしてもそんな結果にはならないわ。一生、ね」

しかし、美矢は心配の欠片も見せず、くすりと笑いどこか自信満々にそう言い切ったのだった。







END


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